海事都市尾道市は、海事産業の人材確保・育成、海事産業の持続的発展、海事思想の啓発など地域の特性を活かした『海のまちづくり』を推進しています。

序章
造船業をはじめ海事機能が集積する尾道市

平成22年3月作成資料

尾道水道

尾道市は広島県の東部に位置する人口約15万人の都市です。

その発展の歩みは平安時代に港町としての役割を担ったことに始まり、今日では海運業に加えて、我が国を代表する造船関連産業の拠点都市に成長するなど、海との深い関わりに支えられています。

港町、商都としての役割を高める中で、海に関わる歴史や芸術文化も育まれ、特色ある海事都市として発展してきました。

第1章 海・港と共に歩んだ尾道

尾道の発展は、平安時代の末期に大田荘(世羅町)の年貢米を運ぶ積出港になったことに始まります。

室町時代には中国の明との勘合貿易の拠点港として発展し、江戸時代には東北・北陸地方の物資を江戸や大坂に運ぶ北前船の寄港地として大いににぎわいました。

明治期に因島に造られたドック

明治以降は大坂と広島等を結ぶ瀬戸内海航路が開設され、尾道は瀬戸内海における人と物資の交流の結節点としての役割を果たします。

また、明治期には最初の近代的造船所が因島に立地しました。第一次世界大戦による造船ブームを経て、戦後は我が国の経済成長とともに造船業が大いに発展します。その後、オイルショックや円高による造船不況を経験しますが、今日では我が国有数の造船産業都市として発展しています。

第2章 尾道の造船業の姿

現在の尾道市は、造船業が盛んであった2市3町の合併によって誕生しました。尾道市の造船関連産業は、その売上規模が市の製造業全体の約3割に達するなど、地域経済に大きな役割を果たし、また、その従業員数は、2006年には我が国の都市の中でトップとなっています。

造船

尾道市内には、大小合わせて20社の造船会社があり、大型の外航船から小型の旅客船や官公庁船、作業船など、それぞれの会社が得意とする技術や特徴を活かした船づくりを行っています。さらに、修繕を専門とする会社やアルミ船を得意とする会社など、造船会社の構成も多彩となっています。また、市内には、エンジンやボイラー、舵やクレーンといった船舶への搭載品・装飾品を製造する船舶工業事業者が40社ほどあり、市内をはじめとする全国の造船所に舶用工業製品を供給しています。このように、尾道市は造船関連産業の集積都市となっています。

一方、岡山県や愛媛県、香川県など尾道市に近接する地域にも造船関連産業の集積地が存在しています。造船関連産業は、これら地域の間で相互に取引関係を持つような産業活動形態となっており、瀬戸内海地域は世界の建造量の1/6を担う造船産業地帯となっています。

尾道の造船業に関しては、専門家の調査・検討において、「今後は造船関連産業の集積や、相互連携といった地域の強みを強化するとともに、造船業の歴史が育んだ文化を基とする地域づくりに取り組むべき」といった見解が示されています。

第3章 尾道の海運業と港

尾道水道

尾道では、多くの旅客航路が本土と島々を結んでおり、人々の移動手段として大きな役割を担っています。旅客船が航行する風景は、映画にもたびたび登場することで、尾道のイメージづくりにも寄与しています。

尾道市内には、多くの内航海運会社があります。内航海運は鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資の国内輸送に大きな役割を持ち、また、今日では地球環境問題などを背景として、トラック輸送から内航海運への輸送に切り替えるモーダルシフト に注目が集まっています。

船舶

さらに、尾道市内には数万トンクラスの外航船を所有する外航海運会社もあり、国際物流の一翼を担うとともに、四面を海に囲まれ資源に乏しい我が国の国民生活を支えています。

第4章 海の人材育成と海事文化の振興

尾道市内には、我が国初の造船技術者養成機関として、因島技術センターが開設されており、この教育システムは、その後全国に普及するなど、先駆的な役割を果たしてきました。

また、戦後いち早く、海運に携わる船員養成を使命として、尾道海技学院が設立され、近年では、海のレジャーに関わる人材育成や、海とのふれあいの場づくりを推進しています。

尾道みなと祭

他方、海運業の長い歴史や我が国有数の造船業の集積をもつ尾道市では、歴史的な建物や街並み、景観等に「海事文化」を発見することができます。尾道みなと祭、因島水軍まつり、瀬戸田ホーラエンヤ等の祭りは、海と港に関わる尾道の発展の中から生まれたものであり、今日まで引き継がれ、尾道を代表する祭りとして市民に親しまれています。

尾道は造船業や海運業などの海事産業の集積をもつとともに、船員や造船技術者等の人材育成の拠点でもあり、さらには地域の文化の中にも海の歴史が感じられるなど、我が国を代表する特色ある海事都市となっているのです。

第5章 海事都市としての発展を目指して

ヨット

尾道市では関係する行政、地元経済界、企業、事業者団体、教育機関等と連携して、さらなる海事都市としての発展を目指した取組みを開始しています。

これは海洋立国である我が国の競争力の強化を目指したモデル的な取組みであり、海事関係の人材確保と育成、海事産業の持続的発展、海事思想の啓発等による「海のまちづくり」を進めています。

海とともに発展する尾道